''『蕎麦の実をまぜた嘗め味噌と茄子の丸煮(煮びたし)、冷酒「亀の泉」』''
『蕎麦の実をまぜた嘗め味噌と茄子の丸煮(煮びたし)、冷酒「亀の泉」』
蕎麦の実をまぜた嘗め味噌と茄子の丸煮(煮びたし)、冷酒「亀の泉」、これは、
第六話の「まゆ墨の金ちゃん」の冒頭で出てくる料理である。
浅草・元鳥越町に〔奥山念流〕の道場をかまえている牛堀九万之助 は、そのふり けむる雨をながめつつ、夕餉の前の酒をのんでいた。 九万之助が好む酒は、近所の酒屋〔よろずや〕で売っている亀の泉という銘酒で、 これを冬も夏も冷のまま、茶わんでのむ。 (P252)
牛堀九万之助、四十一歳。
最近、秋山小兵衛との親交が深まっている。
「先生…」 と、九万之助の身のまわりを世話している権兵衛という老僕が、蕎麦の実をまぜた 嘗め味噌と茄子の丸煮を運んで来て、 「いやな奴が、めえりましたよう」 しわだらけの老顔を顰めて見せた。 (P253)
やって来たのは、三浦金太郎(二十八歳)。
剣術の腕前は「相当なもの」で、九万之助の代わりに門人たちへの稽古をつけ
ていたこともある。
この金太郎、口紅をさしたり、眉墨を使ったり、耳の後ろに白粉をつけたりす
るもので、老僕の権兵衛などからは、「男女(おとこおんな)」「糸瓜(へちま)の化け物」
などと、悪口をたたかれている。
秋山小兵衛は、彼のことを「まゆ墨の金ちゃん」と呼んでいる。