''『浅蜊の剥身と葱・豆腐を、さっとうす味に煮こんだもの、冷えた酒、麦飯』''
『浅蜊の剥身と葱・豆腐を、さっとうす味に煮こんだもの、冷えた酒、麦飯』
大治郎は、礼蔵が訪れた次の日、礼蔵から託された書状をもって柿本源七郎のもとに
出かけている。
礼蔵と柿本源七郎との果し合いは、二日後と決まる。
その日の夜。
夕餉の膳に、馳走が出た。 あの唖の女房のこころづくしなのである。馳走といっても、浅蜊の剥身と葱・豆 腐を、さっとうす味に煮こんだもので、 「これはよい」 嶋岡礼蔵は、うれしげに、なつかしげに、 「いかにも江戸だな。むかしをおもい出す」 と、いった。 (P87)
この語らいの中で、礼蔵が「茶わんの酒(冷えた酒)」を飲むシーンが出てく
るのだが、この酒は、礼蔵が自身で買ってきたものか、大治郎が買ってきた
ものかは分からない。
大治郎は、礼蔵が来ていることを、父・小兵衛にはまだ知らせていない。
だから、父のもとから酒を手に入れてきたのではない、ことだけは確かだ。
「浅蜊の剥身と葱・豆腐を、さっとうす味に煮こんだもの」(味噌味?)とい
うのを、いつか自分でも作ってみようと思っている。
浅蜊から出汁が出て、さぞ美味い味になるにちがいない。
「深川飯」などというのは、これに似たものなのだろうか。