''『冷えた瓜(うり)』''
『冷えた瓜(うり)』
弥七の探索により、平助が一橋家の控屋敷に入ったことを知った小兵衛、大治郎
親子が屋敷近くの木立の中で見張りをしている。
時は四ツ(午後10時)ごろである。
この間、弥七は見張りの場所をはなれ、田沼屋敷を出て来た三冬と連絡をとっ ている。 神田橋門外で三冬と会い、駆け戻って来た弥七の報告を聞いた小兵衛が、 「では、田沼様は浜町の中屋敷へ移られるというのだな」 「さようで」 「なるほど、それでよし。三冬どのには、根岸の家へ帰って首尾を待つように つたえてくれたろうな」 「おっしゃるまでもございません」 「それでよし、よし」 「先生。門跡前で冷えた瓜を買ってまいりました。めしあがりますか?」 「おお、何よりの馳走だ。切ってくれ」 「かしこまりました」 それから一刻(二時間)ほどして、五人の影が、一橋家の控屋敷からあらわれ たのであった。 (P342~343)
梅雨の明けた夏の夜のことである。
冷えた瓜は、まさに「何よりの馳走」だろう。
私などは、蚊のことが気になってしまうのだが……。