''『鮎(塩焼き)と酒』''
『鮎(塩焼き)と酒』
第七話「御老中暗殺」に入る。
『剣客商売一』の最終話である。
田沼家の〔御膳番〕をつとめる飯田平助のふところから紙入れが掏り取られ
るのを佐々木三冬が偶然見ていた。
三冬は、掏摸(すり)から平助の紙入れを取り戻すのだが、中から出てきたの
は大枚の金と共に油紙にくるまれた薬の包みであった。
三冬は疑惑を抱き、秋山小兵衛宅を訪れる。
本所・亀沢町に住む町医者の小川宗哲の鑑定により、その薬が毒薬
であると知った小兵衛は、飯田平助の動きをさぐる手伝いをたのむた
めに、四谷伝馬町の御用聞き、弥七の家に出向いて行く。
「まあ、先生。弥七はいま、外へ出ておりますんで」 「おみねさん。今日は帰るまで待たしてもらうが、いいかえ」 「はい、はい。そうなすって下さいまし。ちょうど、よい鮎が 入っており ますし……」 「それはいい。酒もたのむ。おやおや、いつの間にか夕暮れに なってしま った。腹もぺこぺこさ」 (P316)