''『お茶と嵯峨落雁(さがらくがん)』''
『お茶と嵯峨落雁(さがらくがん)』
「あたたかい初冬の陽ざし」(P17)の日、大治郎は、父・小兵衛(五十九歳)の
家を訪ねている。
前夜、ふしぎな来客があり、
「人ひとり、その両腕を叩き折っていただきたい。…」
と、怪しげな依頼をしてきたことを伝えに来たのである。
ここで、「上等のお茶」と「嵯峨落雁」をごちそうになる。
おはるが茶菓をはこんで来て、大治郎にすすめた。 上等の茶であり、菓子は両国米沢町・京桝屋の銘菓〔嵯峨落雁〕であった。 大治郎は、茶をのみ、ゆっくりと菓子を味わいはじめた。こだわりのない、 まことに自然な所作であって、いまの彼の貧しい生活がすこしもただよっ ていない。 …(中略)… 「御馳走になりました。では、帰ります」 (P18)
大治郎の母となる「おはる」は、十九歳。
「上等の茶」が出、「銘菓」が出てきている。
時代がずいぶん裕福になってきているのを感じる。
しかし、その「上等の茶」も「銘菓」も、大治郎が、何やら「根深汁」に「大根の漬物」、
「麦飯」と同等のような感じで味わっている雰囲気は、不思議な印象を残す。